その子の将来を見据えて、今できること

Pさんは、物心つく頃に来日し、生活の中で日本語を身に着けてきました。

発音もほぼネイティブと同じですし、日常のコミュニケーションには何ら問題はありません。

ですので、私が小学校5年生で担任をするまで日本語学級には通っていませんでした。 ですが、小学5年生の学習は、鬼門。。。。

日本語が母語の子であっても、ぐんと難しくなるのを感じる内容です。 算数も、「割合」など難しい単元が出てきます。

 

その中で彼が親や補習塾のサポートも無しに追いつくことは、だいぶ厳しいことでした。 特に国語や社会は、一応教科書を開いてはいたけども、ただ開いているだけ。

担任としてフォローできることは一所懸命したつもりでした。 自分なりに、ですが。。。 でも、やはり学習面で他の子たちと差がついていってしまっていることは事実でした。

 

また、そういう中で自己肯定が低くなっているように見られる彼を見ていて、彼自身が彼を好きになれる瞬間を作りたいと思っていました。

今後の進学を考えたら、このまま学級での学習だけでは厳しい。 だけども、習い事に通うのは家庭的にも中々難しそう。

 

それなら、担任として提供できる環境としては、日本語学級に通級させることだと、当時の私は考えました。

それが正しかったかは今でも分かりませんが。 ですが、今まで日本で育ち、日本人と同じように生活してきた彼にとって、「日本語学級に通う」はプライドが許さないかもしれません。

そして、周りの子たちもそれをプラスの意味で受け容れるか分かりません。

どちらもしっかり話をして、よい環境を作るべきだと考えました。

 

というわけで。 まずはPさんとじっくり話す時間をもつことに。

家族のこと、勉強のこと、将来のこと、・・・色々話をしました。

 

谷村からは、

 

「あなたがすごく頑張っていること、本当によく分かる。お父さんもお母さんもお仕事忙しいし、Pくん本当に自分でよく頑張ってる。 だからこそ、中学でも高校でも、今のPくんみたいに明るくて元気で友達がいっぱいいる、ステキなPくんでいてほしい。 でも、5年生、6年生、中学校と学年があがっていくにつれ、勉強はどんどん難しくなっていく。これは、あなただけでなくクラスの皆誰にとって難しい。でも、他のみんなよりも大変なのは、誰よりあなたが分かっているはず。 だから、あなたの将来のために、日本語学級に通うことをおすすめする。 あなたの今の日本語がダメなんじゃない。あなたが今後やりたいことができるようになるために、日本語学級に通えたらいいと思っている。」

 

今思い返すと、お節介の極みでした。。。

いや~、本当に余計なお世話な話をしたなぁ~。。。

 

でも、当時はこれぐらい話をしないと彼自身が日本語の学習を肯定的に受け容れることができないと思っていました。

彼はしっかり受け止めてくれ、保護者の方も承諾してくださり、日本語学級に通うことになりました。

 

彼にとっては、日本語を学習することにあわせて、少人数授業がリラックスできる時間にもなっているようでした。

日本語学級の先生方やクラスの仲間の理解もあったからこそ、彼が日本語学習の場を作れました。

やはり周りがきちんと彼を受け容れてくれたことが一番大きかったと感じます。

 

私が働いていた地域では、公立小中学校の日本語学級での学習時間は上限があったので、どこまで学校で日本語学習をフォローできるか分かりません。

ですが、子ども1人1人の今だけでなく将来も出来る限り見据えて、その時の自分の立場で一緒にできることを考えるのは、とても大事だと感じます。

現在の私は日本語教師の立場からですが、この気持ちは決して忘れずにいたいと思います。